結末のない物語/ソフォクレスの『アンティゴネー』と近現代の『アンティゴネー』(2024/7/12)

 ヴァージニア・ウルフがその著作(※1)の中で何度もソフォクレスの『アンティゴネー』に言及していたことをきっかけに、古代ギリシア悲劇であるこの物語に興味を持つようになった。  ギリシア神話に登場する都市国家・テーバイの王 […]

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「アウトサイダー」であること/『三ギニー』書評(2024/7/5)

 ウルフがこの本を書いたのは約90年前である。90年前と現在との間には、時間的にも空間的にも大きな隔たりがあるにもかかわらず、この本の中で指摘されているさまざまな問題はけっして過去のものとはいえない。というのも、ウルフが […]

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思いもよらないことば/『オーバーストーリー』書評(2024/6/28)

 著者であるリチャード・パワーズ(Richard Powers)は、『オーバーストーリー』の着想を、カリフォルニア州北部をハイキングしているときに見たレッドウッドから得たとインタビューで語っている。そのレッドウッドは樹齢 […]

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シンボルスカとの何度目かの出会い(2024/6/21)

 ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923-2012)は、ポーランドに生まれた詩人で、1996年のノーベル文学賞受賞者でもある。はじめてシンボルスカの名前を知ったのは、大学を卒業する年に、ある人から贈られた谷郁雄のエッセイ集 […]

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答えのない問いを問いつづけること/『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』書評(2024/6/14)

 この本は、さまざまな「彼女たち」が、戦争の時代をどのように生きたのか、28章にわたる短いエッセイをまとめたものである。「彼女たち」のほとんどは、すでにこの世を去った死者である。その中には、ヴァージニア・ウルフやシルヴィ […]

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世界は物語に満ちている/追悼ポール・オースター(2024/6/7)

 ポール・オースター(Paul Auster)をはじめて読んだのは数年前のことで、大学生活もなかばを過ぎようとしていた頃だったと思う。『ムーン・パレス』(1997)からはじまり、『孤独の発明』(1991)、『鍵のかかった […]

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「たましいの遺産」/『新装版 ペルーからきた私の娘』書評(2024/5/31)

 『ペルーからきた私の娘』は、藤本和子が1975年から約10年近くのあいだ(※1)に、ニューヨーク、東京、カンサス、イリノイ、とさまざまな場所に生きながら、「どこに発表しようというはっきりした意図を前提にしないで」書かれ […]

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後ろを見ながら前にすすむ/西戸崎で本屋をすること(2024/5/23)

 先日、友人が福岡にあそびに来た。友人はお店に来て、長いあいだ棚を見てまわり、本を選んでくれた。それだけでも嬉しかったが、一緒に船に乗って博多港まで来てくれると言う。西戸崎の渡船場から船に乗って、二人で博多港に向かった。 […]

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福岡アジア美術館と『世界の果て、彼女』(2024/5/17)

 福岡・中洲の博多リバレインビル7階に福岡アジア美術館はある。小さい頃、よく母に連れられてこの場所に来ていた。その頃の私は、ここがどんな場所なのかあまり理解していなかったように思うが、なんとなく、日常の中で凝り固まったも […]

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屈折した、かすかな通路/『慶州は母の呼び声』書評(2024/7/12)

 2024年4月16日、私は博多港に来ていた。セウォル号事件から10年が経ったその日、何かを自分に問いかけるため、これから自分がどう生きていけばいいのか、その手がかりのようなものを探すため、海が見える港へやって来たのだ。 […]

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